”ここから”のはじまり
「地域と共に。」 我々アドバンスグループが目指す施設の在り方でした。
介護施設を運営する中で、長く想いを重ねていたことは、施設は生活をする場所ではあるが、建てものだけで完結しない、仕組みだけで完結しない、地域の方たちとの交流なくしてあるべき姿は作れない、そう考えていました。
それまで施設と地域交流の場として定期開催をしていたワークショップでは、事業所が休みの土日を活用するなど、イベントとしての枠を超えず、日々そこにあり、気軽に求められるものではなかったように思います。
「本当に地域の方たちが訪れたいと思う場所とはどういう形だろう?」と思う日々でしたが、答えはシンプルでした。
「地域の方たちに、聞いてみよう!」
どんな場所だったら行ってみたいか、近隣住人の方たちはもちろん、子供会のお父さんお母さん、お子さんにも、そして社員の意見をまとめることから始めました。
そうしたところに、偶然にも広島県府中市の公募に合致することが分かり、当グループが想うテーマについて、気持ちを込めてお伝えしたところ、「ここから」の着工が叶うことになりました。
”ここから”は過去も今も、そしてこれからも地域の人々と、様々な協力者とともに歩んで参ります。
交流については、地域のコミュニティデザイナー中尾さん、珪藻土の菊池さんとの出会いが人とのつながりを生んでくれています。そして、”ここから”の企画を実現に欠かせない建てものは建築家の西村崇さんに企画段階から参画いただき、地域に愛される場を始めることができています。
”建てもの”の話
この建物は、屋根が重なるように作られています。内部の共用スペースには、屋根の隙間から光が差し込み、風が抜け、外部の様な気持ちの良い空間となっています。
また、この共用スペースは街並みの様な構成となっており、多様な居場所を設けています。囲炉裏を囲い食事の支度や井炉端会議をしたり、縁側のような畳スペースで将棋を打ったり、銭湯のようなお風呂があったり、自宅のダイニングのようなスペースがあったり、一人で集中して裁縫できるコーナーがあったり、庭を眺めながら昼寝が出来る場所があったり・・・
これらの居場所は、屋根の高さや壁の色を変化させ、心地良く過ごせるよう配慮しています。
入居者の方が生活をする各部屋は、施設の様な均一な配置ではなく、各部屋をずらして配置し、素材や寸法を住宅の様なしつらえとする事で、安心感とくつろぎを持てる住処としました。
道路に面に対して大きなガラスを設けた西側のスペースは、地域の方が利用できる空間となっています。共用スペースとはガラスで仕切られているので、そこで行われている地域の方々の活動や生活を眺めることが出来ます。
また、建物の南側には緑豊かな遊歩道が設けられ、通行する地域の方々と入居者のお互いの生活が垣間見え、閉鎖的ではなく適度な解放感を持たせています。
地域の人々との接点をちりばめる事で、地域や社会とのつながりを意識できる居場所となりました。
多様な居場所がある事で、思い思いに暮らす人の様々な活動が見え、お互いに刺激し合うことができます。
また、日常に自然を取り込む事で、感受性を豊かにしてくれます。
入居者の方が「あの場所へ行きたい」「これがしたい」と当たり前の欲求を呼び起こさせてくれる、そんな建物を目指しました。
【グッドデザイン賞】
2020年度グッドデザイン賞受賞 (分類:公共の建築・空間)
「高齢者認知症グループホーム/ここから」
「多様性を感じさせる街のストリートのような共用部の空間が魅力的」と評価を得て、2020年グッドデザイン賞を受賞しました。
https://www.g-mark.org/award/describe/50805?token=MzEBAwbL7h
生活と日々
「当たりまえでなくなったことから、新しい当たりまえに」
これまで普通にできていたこと、やりたかったことを”ここから”始められる、やり直せる。
本来、利用者さまが人としてあるべき選択をし続けられるよう、利用者さま、スタッフ、地域の皆さまと共に歩む生活を創り続けます。与えられる日々ではなく、互いに与え合う、支え合う日常を目指しています。
ここから利用者、高橋さんの日常
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ここからで生活開始
入所日にスタッフが「ここは自分たちでご飯を作るから、朝早く起きてね!」と伝えると、翌朝5時に「自分らでやらんといけんのじゃろ!?起きたよ!」と元気にお部屋から出て来られた。
実際に料理をされる時は、とても生き生きされていた。しかし、一週間もすると・・・。「私は女中じゃないんじゃけぇ、90歳にもなって料理なんかしたくない。前の施設は何もしなくて良かったのに!ゆっくり過ごして楽に死にたい!ここを出ていく!」とカンカンに怒られた。
ご家族とスタッフが思っていた事
入所前は要介護3の車椅子生活で、腰は90度に曲がっており、家族様は、もう以前のように元気に活動することは出来ないと思っていた様子。スタッフとしては、好きな事や新しい事など、諦めずに色んな事に挑戦してほしいと思っていた。また、それを本人にも伝えていた。
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料理場の主役
怒られたその日、職員が夕食で使うジャガイモを皮ごと茹でていた。それを見て「誰がこんなバカな事をしたん!?ジャガイモは皮を剝いて、切ってから湯がきなさい!」と言われ、その通りにしようとするも、ジャガイモが熱くて皮が剥けずモタモタ。もどかしくなったのか、「もう私がするけぇ貸してみ!」と食事作りに参加され、最終的にはその日の料理すべての指揮を取られた。
思い切って聞いてみた。
「朝、物凄い怒っていたけど、実際に料理をしている姿を見るとすごく楽しそう。料理するのは好きですか?」「私は料理をするのが好きなんよ。作った物を人がおいしそうに食べているのを見るのが好き。」
それからは、料理をするのが日課となり、時にはやりたくない日もあったが、続けていくうちに髙橋さんから出てくる言葉が変わった。
「私はここで料理をし始めて元気になった。今なら何でもできるよ。なんでもするよ!」
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得意な漬物づくり
施設の近所で畑をされている方に頂いた白菜で漬物を作ることになった。家では毎年作られていたそう。出来上がった漬物を振舞う時もまた、とても生き生きとされていた。
他にも、大根30本でたくあん漬けを作られた。ものすごくおいしいたくあん漬けで、朝食の定番メニューになった。
次へ、未来へ
入所時は、年齢や環境などを理由に無意識に自分で自分の限界を決めて、諦められていたのかもしれない。笑ったり、怒ったり、悲しんだり、それでも色んな事に挑戦していくことで、やりがいや生きがいを持てた。
介護に関わるスタッフに必要なことは、その人の本心を知ろうと努めることだと思う。本当は大好きな事でも、色んな要因によって「やりたくない」に変わる。この要因を探っていく過程で、本人とスタッフが共に悩み・怒り・悲しみ・笑い・感動し、そうして本当の気持ちが見えてくる。
髙橋さんは現在自分の足で介助なしで歩かれ、自分の意志で家事をされる。その結果要介護3から要介護1になられた。
そんな高橋さんは言う。
「 死ぬまで好きな事をしていたい。そして、料理はずっと続けたい。 」
髙橋さんは、今日も元気にマイ包丁を持って料理場に立つ。
施設概要
名称 | ここから |
種別 | 高齢者グループホーム |
住所 | 〒726-0002 広島県府中市鵜飼町680−1 |
電話 | 0847-54-2235 |
kokokara@advance2003.com | |
介護保険事業所番号 | 3491700161 |